紛争の内容
Aさんは、60年以上前から居住用建物の所有を目的としてBさんから土地を賃借し、土地上に自宅を建てて平穏に暮らしてこられました。地代の支払いが滞ることも一度としてありませんでした。
しかし、子供達は全員独立し、妻にも先立たれたAさんは、高齢者の一人暮らしが心配となり、この度、施設へ入所することを決めました。
そこで、現在の土地賃貸借契約をきちんと解消するため、Bさんとの交渉を弁護士に依頼されました。

交渉・調停・訴訟等の経過
Bさんと連絡を取り、「Aさんとしてはもう今の自宅には住まないため、土地賃貸借契約を合意解約したい」旨の申入れを行ったところ、Bさんはよく事情を分かって下さり、合意解約に応じてもらえることになりました。
問題は、土地上の建物の存在で、傷みも激しいことから解体撤去が必要かとも思われましたが、建替え不可能(接道要件を満たさない)の土地であったため、Bさん側から「建物はできればそのまま残していって欲しい」との要望が出されました。
そこで、話し合いを重ね、Aさんから合意解約にあたって借地権の清算(現金化)を求めない代わりに、建物についてはBさんが無償で引き取ることとなりました。

本事例の結末
Aさんのご希望どおり、土地賃貸借契約を合意解約したうえで、土地をBさんに返還することができました。
(土地上の建物についてはBさんに無償譲渡し、登記名義をBさんに移転しました)

本事例に学ぶこと
Aさんとしては、自分が施設に入った後、自宅が空き家になって荒廃し、台風などの災害時に近隣住民に損害を与えるような事態になるのではないかと懸念されていました。
本件では、地主であるBさんのご理解もあり、双方の利害を調整しつつ、建物の所有権もBさんが引き取る形で契約関係を解消することができて、本当に良かったと思います。

弁護士 田中 智美