個人で賃貸業を営んでいたり、管理会社として大家から相談される場合に、「家賃滞納」の悩みがあるかと思います。
一度家賃を滞納すると、正常化するのはなかなか難しく、ずるずる滞納が溜まっていくケースが多いように思います。1,2ヶ月なら待てるものの、3ヶ月、4ヶ月と続くと、さすがに退去してほしいと考えるかと思います。
当事務所は、多くの不動産業者、管理会社から相談を受けた実績があり、家賃滞納による明け渡しについては、相当な経験値を有しています。
ここでは、家賃滞納による明け渡しの流れと方法について解説していきます。

家賃を滞納したらどうなるか

結論から示すと、家賃を滞納した場合は、賃貸借契約の解除事由(理由)となります。これが、賃料不払いを理由とする賃貸借契約の解除です。
賃貸借契約の終了事由としては、一般的に、(1)合意解約、(2)解除、(3)更新拒絶、(4)解約申し入れが存在しますが、この(2)解除にあたるということになります。

法的に賃貸借契約は、賃貸人が賃借人に対し、ある物(アパートの1室や土地等)の使用収益をさせることを約束し、他方で賃借人が賃料を支払うことを約することによって成立する契約です。したがって、賃借人が賃貸人に対し決められた賃料を支払うことは、賃借人の義務(債務)となります。
そうすると、その義務を果たさなければ、「債務不履行」となり、賃貸借契約を解除することができるということになります。

賃料の滞納があれば必ず解除できるのか

それでは、賃借人が1度でも賃料を滞納すれば必ず賃貸借契約を解除することができるのでしょうか。実は、判例では、賃貸借契約の解除が認められるためには、賃貸人との信頼関係が破壊されたと言える程度の家賃滞納が必要と言われています(信頼関係破壊の法理)。したがって、一般的には、1ヶ月程度の滞納では解除は認めがたいと言えます。
一応の目安としては、3ヶ月分程度の滞納状況があれば解除が認められる傾向にあります。
なお、判例では、いかなる場合に賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊したといえるかについては、賃料不払いの回数だけでなく、不払いの金額、不払いの態様、不払いに至った事情、賃借人の支払意思や支払能力、賃借人の態度などの諸事情が考慮されるとされていますので、特殊事情によっては、すんなり解除できないケースもあります。
したがって、賃料滞納による解除の場合でも、明け渡しを実現するためには念のため弁護士に相談をするのが良いと考えます。

どのように解除するか

解除の手続きについてご説明します。
通常、解除をするためには、可能な限り証拠を残すために書面で通知をします。
書面には、滞納賃料の金額を明記し、一定期間(1週間程度あれば十分と言えます)内に支払がなければ契約を解除する旨を記載します。一定期間の間に、賃借人が請求した滞納賃料全額を払わなければ、期間経過と同時に、賃貸借契約が解除されたたことになります。
なお、弁護士が通知をする場合は、内容証明郵便で送付するのが一般的です。

※内容証明郵便の場合は、相手が「受け取らない」とい留置期間経過で返送されてくることもあるので、「特定記録郵便」で同時に送るというケースもあります。内容証明郵便は受領サインが必要ですが、特定記録郵便は、基本的にはポストに入れるだけです。

解除通知の記載例

催告書

私はあなたに対し、後記記載の貸室を1ヶ月あたり、家賃9万円、共益費1万円の合計10万円で賃貸していますが、あなたは平成○○年5月分から同年7月分までの家賃・共益費合計30万円(1か月10万円)の支払いを遅滞しています。
よって、本書配達後5日以内に上記30万円全額をお支払いいただくよう催告します。万一、お支払いがない場合は、改めて契約解除の通知をすることなく、あなたとの間の上記貸室賃貸借契約は解除されたものとして扱いますのでご了承下さい。

埼玉県○○市○○町6丁目5番
家屋番号 ○○番
軽量鉄骨造りスレート葺2階建アパート205号室
床面積 ○○平方メートル
平成○○年8月5日
埼玉県○○市○○町6丁目8番12号
○○アパート205号室
乙川 康夫 様

埼玉県○○市○○町3丁目3番6号
甲野 一郎

明け渡しのための訴訟

賃借人が、契約を解除することによって任意に不動産を明け渡してくれれば良いですが、滞納をしたまま、明け渡さずに居座るケースも多くあります。
その場合は、「明け渡し訴訟」をまず提起する必要があります。また、訴訟のあとには、「強制執行」をする必要があります。流れとしては以下の通りです。

1.内容証明郵便で賃貸借契約を解除

2.明渡し訴訟を提起

3.判決を取得

4.強制執行の申立

明渡し訴訟は、特に争いのないケースで、弁護士が早く準備をしたとしても、判決が出るまで、最終的に3ヶ月から半年程度はかかってしまいます。
裁判を提起する場所は、相手の住所地を管轄する地方裁判所となります。

例)川越市→さいたま地方裁判所川越支部
越谷市→さいたま地方裁判所越谷支部
さいたま市→さいたま地方裁判所
東京都板橋区→東京地方裁判所

訴訟進行中も、賃借人が居座れば、賃料滞納が続くことになります。その分大家の損失も増えるので、滞納にはよく注意する必要があります。

明け渡しの強制執行

無事に判決を取得しても、まだ賃借人が居座ったり、荷物を置いて行方不明になってしまった場合は、裁判所を通じて、強制執行の手続をとる必要があります。

※自力執行の禁止
たとえ賃借人が夜逃げしていなくなっても、残された荷物を勝手に捨てることは原則として「不法行為」に該当する可能性があります。
そうなので、賃借人が荷物を置いて「占有」しているとして、判決→強制執行の流れにのせる必要があります。

強制執行は、まずは、申立をした後に、賃借人に対する明渡しの催告(1ヶ月程度の期限を定めて明渡しを求める)に行きます。現地の物件に「執行官」という方と共に行き、催告をします。それでも、期限内に賃借人が明け渡しに応じない場合は、「明渡しの断行」と言われる手続きに移ります。これは、搬出業者が不動産内の物を強制的に全て運び出し、建物の場合は、最終的に鍵を交換してしまします。そうすることによって、明渡し完了となります。
強制執行については、別記事で詳しく解説致します。

最後に

滞納賃料について

明け渡しと同時に、滞納賃料の回収をしたい場合は、明け渡し訴訟と同時に、滞納賃料の請求訴訟を提起します。別々に提起すると、余計に手間がかかるので、一度の訴訟で請求するほうが費用も節約できます。
ただし、滞納賃料の回収は、「何もない」人からの回収は困難です。中には、長期分割で支払ってもらったり、給料の差押えによって回収できるケースもありますが、債権回収については弁護士とよく相談して進めるのが良いです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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