マンション管理組合で起こりうる問題の一つが、管理費や修繕積立金の滞納です。管理費等すらも滞納状態という方は、既に当該マンションの住宅ローンも滞ってしまっているというケースも多いかもしれません。そのような相手に、まともに「管理費等を払ってくれ」といっても解決は望めません。そこで、今回は管理費等を長期にわたり滞納しているような場合の対処法の一つとして、区分所有法に基づく競売について解説していきます。

管理費等の長期滞納者に対する競売請求

区分所有者が支払義務を負う管理費や修繕積立金(以下「管理費等」といいます。)が滞納された場合、管理組合はまずこの回収のために、管理会社を通じて支払い催促をすることが多いでしょうが、それでも支払いがなければ訴訟などをして区分所有者から管理組合に滞納管理費の支払義務があることを認めてもらい、それに基づいて区分所有者の財産を差押えるなどの方法で対処することが考えられます。

しかし、当該区分所有者に預金や給与債権もないという場合は、なかなか回収は難しいかもしれません。

区分所有者が管理費等の支払義務を怠り、さらに管理組合が管理費等を回収できない状態が継続し続けても、当該区分所有者に法的に責任を問うことはできないのでしょうか。今回は。そのような問題を解決する方法として考えられる手続をご紹介します。

マンション管理費等を滞納したらどうなる?

管理費等の法的性質

そもそもマンションの管理費とはマンションの敷地や共用部分等の維持管理のために日常的に必要となる費用であり、マンションの共同エントランスや廊下、階段等の共用部分の日常的な清掃や、エレベーターその他の設備の点検、管理組合の運営などに日々使われていくものです。これが滞納されれば、適切な管理もできなくなってしまい、衛生面・防犯面などの住環境の悪化、さらに言えばマンションの資産価値の低下をも招くものです。また同様に、修繕積立金は計画修繕等で必要となる費用ですから、管理費と同様マンションのために必須のものです。

誰が管理費等を支払う責任を負うか

たとえ当該マンションを賃貸物件として第三者に使用収益させていたとしても、区分所有者は管理費等を支払う義務を免れることはできません。

また、上記のとおりマンションのために必須な管理費等は、区分所有法上特別な扱いを受けており、マンションが売却などされて人手に渡ったとしても、新たな区分所有者(「特定承継人」といいます。)は、前所有者の元で生じた滞納管理費等の支払義務を負うことになっています。また、前所有者(譲渡人)も、この特定承継人とともに自らの元で生じた滞納管理費等の支払義務を負ったままです。

つまり、この管理費等というのは、特定承継人にも重畳的に責任を負わせることができる特別な費用なのです。

管理費等を滞納している区分所有者への対応としての競売

管理費等の滞納が生じているマンションに対し、検討できる競売の方法としては、以下の3種類が考えられます。

通常の競売申立

管理費等を滞納している区分所有者に対してはある程度の額に至った段階で、管理費等の請求を訴訟等の形で行うことが考えられます。このような訴訟等で勝訴判決や和解をすることにより、管理費等の請求権が債務名義になったのであれば、マンション管理組合としてその債務名義に基づいて当該訴訟の被告であった区分所有者の財産を差し押さえること等が可能となります。この場合の差押え対象財産は、当該マンションに限りませんが、その他の財産に何があって、どこにあるかが分からなければ、確実にある財産として当該マンションの競売ということが考えられます。

ただ、この競売については、後に述べる区分所有法7条に基づく競売と同様、無剰余取消という手続がとん挫する可能性があるものであるため、実効性がない可能性があります。

先取特権(区分所有法7条)に基づく競売

区分所有法は、7条1項で、当該マンションそのものや、マンションに備え付けた動産の売却代金・賃料等から優先的に管理費等を回収できる権利(「先取特権」といいます。)を認めています。

典型的には、このマンションを競売にかけてしまい、競売により換価された売却代金から滞納管理費等を回収するという方法が考えられます。
この先取特権というのは、裁判などによって判決等の債務名義を取得しなくても競売の申立ができるというのが非常に大きなメリットといえます。

しかし、残念ながら当該マンションに抵当権が付いていたり、税金などのより優先される支払義務が生じていて、マンションの売却代金よりもこれらの優先される債権の方が大きい場合、ここから管理費等を回収することはできません。
毎月支払いが生じるマンションの管理費等すら滞納している方は、当該マンションの住宅ローンも滞納しているということが多いでしょうから、実際には当該先取特権に基づく競売で対応できるケースはあまりないかもしれません。

区分所有法59条に基づく競売

既に述べているとおり、管理費等というのはマンションの維持管理のために必須の費用です。滞納されている管理費等が多額になれば、その埋め合わせをするために、管理費等の増額も検討せねばならないかもしれませんし、計画修繕の実施も出来なくなってしまうかもしれません。

このような、マンション全体に与える影響が非常に大きいといえるような管理費等の滞納になると、その滞納状態は「共同利益違反行為」という評価ができるかもしれません。

このようなレベルまで管理費等の長期滞納をした区分所有者に対しては、当該区分所有権を競売にかけてしまうということが考えられます。これにより、滞納管理費等を回収することができるかもしれませんし、区分所有者を変更するということによりそれ以上の管理費等の滞納を生まない・競落した区分所有者に滞納管理費等を支払ってもらうことができるということも期待できるようになります。

区分所有法59条の競売手続について

この競売手続は、通常の競売手続とは異なる法的性質を持っています。

区分所有法59条による競売の特徴

①競売を認めてもらう裁判を先行させる必要があること
まず、この競売をするには、裁判で、「区分所有権及び同目録記載の敷地権について,競売を申し立てることができる」ということを認めてもらう必要があります(区分所有権競売請求事件)。

②無剰余取消がないこと
競売手続について定めている民事執行法という法律は、裁判所が定めた買受可能価額が差押の対象になる債権に優先するもの(優先債権)と手続費用の合計見込額を下回る場合には、競売を実施しても意味がないとして競売を取消してしまうことになっています(剰余主義)。

しかし、区分所有法59条による競売の場合、この剰余主義の規定は適用されず、仮に無剰余であったとしても、競落人から滞納管理費等を回収することができることになっています。

③譲渡されてしまうと、競売申立ができなくなってしまうこと
区分所有権競売請求事件で勝訴、つまり「区分所有権等の競売する権利がある」と認められたとしても、その後に管理費等を滞納していた区分所有者が当該マンションを第三者に売却するなどしてしまうと、その譲受人に対しては競売を申し立てることができなくなってしまいます。

当該譲受人は、既に述べている特定承継人に当たりますので、この方から滞納管理費等を払ってもらうということも考えられないではありませんが、いずれにしても59条に基づく競売の手続には乗りません。

区分所有法59条による競売が認められるケースとは?

この競売は、管理費等を滞納している区分所有者にとっては、「当該区分所有権を奪われる」という究極の不利益処分であるといえるため、その要件も非常に厳格になっています。以下、実体的な要件と形式的な要件に分けて説明します。

ア 実体的要件
①建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為があったこと、又はそのおそれがあり、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと
②他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること

以上のうち、①については「長期の管理費等滞納」も、区分所有者間の不公平感等を生み、管理費等の支払いを拒むものが他にも現れる可能性も予測され、最終的にはマンション等の維持管理が困難になるという観点で、共同利益違反行為に当たる とした裁判例があります。ただし、どの程度をもって共同利益違反行為といえるのかというのは期間や額だけでは一律に決めることはできず、実害(例えば必要な改修工事の実施可能性に影響が生じる 等)がなければならないとしている裁判例もありますので注意が必要です。

また②については、他の法的手段では功を奏さないということが必要であるということを意味しますが、必ずしもその他の法的手段を全て実施済であるということまでは求められていないと考えられます。実際には、滞納管理費等に関する支払い督促や訴訟等をしているか、滞納している区分所有者の財産に対して強制執行ができないかということなど、様々な事情を総合して判断しているものと思われます。

イ 手続的要件
集会(総会)によって訴訟提起をする旨、管理者等に訴訟提起を授権する場合はその授権する旨の決議をとります。

そして、前者の訴訟提起に関しては、特別決議となっており、かつあらかじめその競売の対象となる区分所有者に対して弁明の機会を与える必要があります。

以上の厳しい要件を揃え、区分所有法59条に基づく「区分所有権競売請求事件」を提起し、「競売を申し立てることができる」という勝訴判決を得て、初めて競売の申立をすることができるようになります。

具体的な手続の流れ

(1)区分所有権競売請求事件
区分所有権競売請求事件は、通常の民事事件として訴訟提起をします。
内容としては、当該管理費等の未納が、区分所有法59条の要件を満たすかということを中心に審理されるものですが、一般的には滞納している区分所有者が、管理費等の支払いをしていないことについて否認をすることは考えにくいため、あとはその滞納のレベルが、マンション管理に著しい支障をもたらしうるものかという評価の問題になるかと思われます。したがって、何回も裁判期日を重ねるということはあまりなく、1回の口頭弁論期日で終了することがほとんどではないかと思います。

提訴後、裁判期日が開かれ、被告が答弁書も出さずに不出頭だったり、出頭しても事実を争うことなく弁論終結(判決を出すための主張・立証が尽くされたと扱うこと)されると、1週間程度で判決言い渡し期日と指定されることが一般的です。
判決の送達から2週間の控訴期間を経て、同判決が確定します。

(2)競売申立
区分所有権競売請求事件の判決が確定してから6か月以内に、競売の申立をします。
競売申立書を裁判所で受け付けてもらってから、予納金という競売手続を進めるのに必要な費用を裁判所に納付します。一般的には1戸につき100万円程度の納付を求められることが多いかと思われます。また、登記の手続を経るため、登録免許税の納付も必要です。

これらの費用を納めると、追って裁判所が競売開始決定を出します。
裁判所は,評価書(不動産の評価額,周囲の環境の概要等が記載された書類)を,現況調査報告書,不動産登記簿謄本等とともに審査し,売却基準価額を定めます。そして、多くの場合は期間入札の方法で、売却決定期日を設定します。

競売開始決定から、実際の競落までは半年以上かかることもありますが、無事競落されれば、予納金なども還付されます。
なにより、競落以後は管理費等を滞納するような不良区分所有者を管理組合から追い出し、競落人に未納管理費等を請求することができますので、一気に滞納問題を解決することができるというわけです。

時間や手続、費用も掛かる方法ではありますが、マンション管理の健全化を図る方法として、区分所有法59条に基づく競売手続は非常に有効であると考えられます。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ
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