事業のために負担した債務について、保証人となる場合、公証人の意思確認が必要です。それでは、保証人が死亡し、複数の相続人が保証債務を相続したときに、その保証債務を一人の相続人に集中させる場合にも、公証人の意思確認は必要でしょうか。

1 連帯保証債務の相続

甲が乙(土地オーナー)に対して建築協力金を差し入れ、乙がこの建築協力金を使って建てた店舗を甲が賃借するという例は多いと思います。

この場合、乙の甲に対する建築協力金の返還債務について、丙が連帯保証人となっていることがありますが、丙が死亡した場合、丙の保証債務はどうなるのでしょうか。また、丙の相続人が保証債務を相続する場合、公証人の意思確認が必要なのでしょうか。

2 建築協力金方式

  建築協力金というのは、甲(建物を賃借したい企業)が乙(土地オーナー)に対して建築協力金という名の金銭を貸し付け、乙は建築協力金を毎月分割の方法で甲に返還する、また建築協力金を使って建てた建物を甲が借り受け、甲は乙に毎月賃料を払う、ただ、乙の甲に対する毎月の分割払い金があるので、甲が乙に支払う毎月の賃料はその分少なくするというものです。

3 連帯保証人の死亡

  たとえば、連帯保証人丙が死亡し、その時点での建築協力金の残高が5000万円、相続人は、妻丁1、子丁2、子丁3の3人とすると、法律上は、相続分に応じて保証債務を相続しますから、丁1(妻なので相続分は2分の1)が2500万円の保証債務、丁2、丁3(子2人になので、それぞれ相続分は4分の1)はそれぞれ1250万円の保証債務を相続します。

このとおりの割合で相続するなら、法律どおりですから、公証人の意思確認はもちろん必要ありません。

問題は、このように保証債務を分割させるのではなく、丁1、丁3には保証人になってもらわなくてもよいから、丁2に5000万円全額の保証人になってほしいという場合です。

甲がそれを希望し、丁2もそれを了解しているなら、このようにすることが可能ですが、その場合、単に契約書を作成すればよいのか、公証人に意思確認をしてもらわなければならないのかが問題になります。

4 公証人の意思確認とは

  誰かに保証人になってもらう場合、通常は当事者同士で保証契約書を作ればよいのですが、公証人による保証意思確認が必要な場合もあります。民法465条の6第1項によると、「事業のために負担した債務を主たる債務とする保証契約は、その締結に先だち、その契約の締結の日前1ヶ月以内に作成された公正証書で、保証人になろうとする者が保証債務を負担する意思を表示していなければならない」として公証人の意思確認を必要としています。

今回の場合、丙が保証していたのは、建築協力金返還債務という事業のために負担した債務ですから、この債務の保証人となるためには、当然、公証人の意思確認が必要になります。

ただ、問題は、今回の丁2が、建築協力金返還債務の発生時に保証人となるのではなく、丙の死亡後に、(丁1、丁3が相続した保証債務も含めて、すべての保証債務について)保証人となろうとする者であることです。

5 公証人の意思確認の必要性

この点、相続人の1人に他の相続人の保証債務も引き受けさせるのですから、やはり公証人の意思確認は必要でないかという考え方もあると思います。

しかし、民法第465条の6第1項は、「事業のために負担した債務を主たる債務とする保証契約」となっていますし、建築協力金返還債務の発生時には、その時の保証人(丙)の意思確認をしているのですから、いったん保証契約をした後、相続が発生して数人の相続人間で1人の相続人に保証債務を集中させる場合というは、この民法第465条の6第1項の適用はなく、私としては公証人の保証意思の確認は必要ないと考えます。

ただ、このように公証人の意思確認なしに、相続人の一人(丁2)に債務を集中させる保証契約をした場合、仮に、後になって丁2が、公証人の意思確認がないのだから、この保証契約は無効だという主張をした場合、最終的には、裁判によって、保証契約が有効か無効かが判断されます。

私としては、上記のとおり保証人の意思確認は不要と考えますが、この点について確定した考えもないようですから、万一のことを考えると不安だということなら、交渉センターに対して意思確認(公正証書の作成)をしてもらいたい旨の連絡をし、事情を説明して、公正証書の作成は不要だというならそのままでよいですし、作成するということなら費用をかけて公正証書を作成することもあり得るかと思います。


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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫

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