建物所有目的での土地の賃貸借契約の場合、その借地権は借地借家法上の保護を受けます。建物がある以上、通常はその契約期間も相当に長いことが多く、期間中に当事者に相続が発生するということもよくあることです。そこで、今回は借地人が死亡し、相続が発生した場合の注意点などについて説明します。

借地人が死亡した場合の借地権、その後どうなる?

借地権も相続の対象となる

亡くなった借地人の名義であった建物についてはもちろんのこと、借地権そのものも、相続の対象となります。したがって、借地権者が亡くなったときは、建物のほか、その借地権も相続されることになります。

地代の支払いはどうなる?

土地を貸していた貸主としては、借地権が相続された以上、その後は新たに借地権者となった相続人に地代を請求すればよいことになります。

そもそも相続人が不明なときは?

上記のとおり、借地権の相続人に地代を請求できるとしても、そもそも相続人が誰なのか分からない、ということもあり得ます。

借地人の相続人が自ら貸主に連絡を取ってくれれば良いのですが、そのような対応もない場合は貸主にて相続人を調査せねばなりません。調査の方法ですが、具体的には、被相続人である借地人の戸籍などを取得します。貸主は、地代を払ってもらう等の意味で「当該被相続人の債権者」という立場にあることから、仮に賃借人と親族関係等になかったとしても、正当な理由がある第三者として住民票・戸籍の附票・戸籍等の書類を役所に交付請求することができます。

相続人がいることが判明したら、まずはその相続人に連絡を試みます。

相続人が誰もいない、または全員相続放棄していたときは

 これに対して、相続人がいなかった場合、あるいは相続人全員が相続放棄をしたという場合、どのように対応すべきでしょうか。借地上に建物が残っていれば、貸主が土地の所有者であったとしても、いつまでも土地の収益が妨げられた状態が続きます。

自力救済の禁止

残された建物を、貸主自ら収去してしまうということはできるでしょうか。

実は、日本の法律では、「自力救済の禁止」といって、たとえ地代が未納状態になっている借地だったとしても、貸主が、法律上の手続を経ずに、相手方の同意・協力なくして、実力で建物を収去し、土地明渡し等を実現することは許されません。

借地権が残ったままの状態の打開策は?

「自力救済の禁止」を前提とすると、存在しない借地人から、地代は払ってもらえないのに、契約を解除して、建物の収去と土地の明渡しを受けることがいつまでもできないということになりそうです。

このような不利益を解消するため、「相続財産清算人」あるいは「特別代理人」という法律上の特別な代理人制度があります。

「相続財産清算人」とは?

「相続財産清算人」は、相続人が存在するか、存在しないかが明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をして,結果として相続する者がいなくなった場合も含まれます。)に家庭裁判所に選任してもらう、相続財産を清算する人のことです。ただ、この清算の対象は問題になっている借地契約だけではなく、「相続財産全体」になってしまうため、この選任のためには費用も手間もかかり、一般的には、予納金だけで100万円ほどかかることが多いです。

「特別代理人」とは?

これに対し「特別代理人」は、問題になっている借地権のことだけについて、スポット的に裁判所に訴訟等の法的手続に関して選任してもらう人のことです。対応する内容は限定的ですので、先ほど述べた相続財産清算人の場合よりも費用は10分の1程度で済むということが多いと思われます。

相続財産清算人・特別代理人、どちらが選任できるのか?

原則的には、相続財産に関する問題は、「相続財産清算人」の選任により解決するのが筋ではあるのですが、特別な事情があり、相続財産清算人の選任を待って問題解決するのは難しいというような場合は、相続財産に対して民事訴訟を提起しようとする者として、債権者である貸主が、特別代理人の選任を申し立てることができると考えられています。

そして、借地契約がいつまでも解除できず、建物の収去及び土地明渡しがなされず未納地代が日々増大していくばかりというような事情は、上記のような特別な事情に当たるとされるケースに当たるといえることも多いようです。

以上のとおりですから、もし借地人が亡くなり、相続人等も存在しないというような事案においては、特別代理人の選任により対応することを検討するのが良いと思われます。

借地の整理に悩んだら?

 以上のとおり、借地権者の死亡一つとっても、、最終的には訴訟という手続も視野に入ってくるわけですが、そもそもどのような対応をすべきか、費用対効果を考えてどこまでやるか、という点を踏まえ、弁護士に相談するというのも一つの合理的な選択肢です。

 特に、弊所では不動産関係に関する相談も数多くいただき、ご相談に対してコメント申し上げたり、可能な場合には交渉・訴訟の代理人としてご依頼を受けておりますので、遠慮なくご相談いただければと存じます。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ

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