紛争の内容
賃貸アパートを経営するAさんは、会社員であるBさんにアパートの一室及びその敷地内の駐車場を貸していました。
当該アパートは築年数が経っており、ペンキの剥落等があったため、敷地内の駐車場にアパートから流れ出た汚れが落ちてきてしまうという状態になっていました。
Bさんの駐車スペースは、丁度その汚れが多く落ちてくる場所であったため、Bさんが置いていたバイクが、汚れてしまう、という状態になっていました。
Aさんは、Bさんから「自分のバイクが汚れたのは賃貸人としての義務を果たしていないからである。バイク修理費を弁償してくれ。」などと言われ、修理工場での取った見積書記載のバイク修理代50万円を請求されてしまいました。
ところが、このバイクはかなり年式が古く、50万円という修理費を払うとしても、そもそもバイク自体が20万円の価値もないものでしたので、Aさんはこの賠償義務を果たす必要が本当にあるのか、弁護士に相談することにし、ご依頼をいただくことになりました、

交渉・調停・訴訟等の経過
Aさんがアパートの管理を十分にできていなかった結果、汚れが生じてしまったことは争いようがなかったため、その点は争わないことにしました。そこで、弁護士からは、Bさんに対し受任通知を出すとともに、本件バイクの価値は20万円にも満たず、50万円の修理費は過大な請求になること、すなわち本件は経済的全損であると伝えたのです。

本事例の結末
Bさんは、当初は本件バイクが経済的全損となる主張を認めませんでしたが、弁護士からのバイクの時価額の主張や、日本の裁判実務でも経済的全損の考え方は一般的となっていることなどの説明を受け、バイクの時価額の限りで賠償を受けることに同意し、修理代ベースではなく、バイクの時価額にて示談することになりました。

本事例に学ぶこと
契約関係を結ぶ中でも、債務不履行を理由に、賠償請求を受けることはあり得ることです。
確かに債務不履行があって、損害が生じていたとしても、請求された賠償額が相当であるか疑問に思うケースもあるでしょう。
その場合は、速やかに弁護士に相談し、誠実に被害者の方に対応するというのが当事者間の関係を維持できる重要なポイントであると感じました。

弁護士 相川 一ゑ