紛争の内容
依頼者Aは、祖母Bから相続した土地(相続登記済み)を第三者に売却しようとしたところ、その土地にはだいぶ昔にBによって所有権移転仮登記がなされており、それがそのまま登記簿上に残っているため、第三者への売却ができないという結論になり、困っていた。
登記簿を見ると、Bによる所有権移転仮登記がなされた後、Bはこの土地を当時の権利者から買い取っており、本来ならこの時点でB名義の仮登記は抹消されていなければならないところ、なぜか仮登記はそのままに、Bへの売買による所有権移転登記がなされていた。
Aからの相談を受け、B名義の仮登記を抹消するための訴訟を提起することにした。
交渉・調停・訴訟などの経過
この土地をBが購入した段階で、先になされたBの所有権移転仮登記は混同によって消滅しているはずであり、B名義の所有権移転仮登記が残っているのは法的にもおかしいことになる。
この所有権移転仮登記を抹消する義務を負っているのはBということになるが、Bはすでに亡くなっていることから、Aを除くBの相続人全員が義務者ということになる。
提訴の前に、まず、Bの相続人を調査したところ、存命している者で全30名いることが判明した。
そこで、その30名に対し、B名義の所有権移転仮登記の抹消を求める訴訟を提起した。
被告の中には、裁判所から郵送されている訴状を受け取ってもらえず、居住調査が必要な者も複数名おり、全ての送達手続きを終えるまでにかなりの時間がかかった。
裁判自体は1回で結審し、判決も言い渡されたが、控訴期間が満了して判決が確定する前に、被告のうち1名が亡くなったことで手続きが中断し、その死亡した1名の相続人らに対して訴訟を受継させる手続きが必要となるなど、判決の確定までにも困難が伴った。
本事例の結末
B名義の所有権移転仮登記の抹消を命じる判決が確定し、A単独で、その確定判決に基づいて所有権移転仮登記を抹消することができた。
本事例に学ぶこと
本件では、残ってしまっている所有権移転仮登記の抹消をすべき相続人が全30名もおり、その誰とも面識がないこと、個別の同意を取り付けていてはいつ抹消できるようになるかわからないことから、一挙に、早期に解決すべく訴訟提起を選択した。
その一方で、突然身に覚えのない訴訟を提起されたら驚くのが通常であるから、訴訟提起の前に、弁護士からそれら30名の相続人に対し、事の経緯とAに敵意はないこと、費用は一切Aが負担し皆さんに迷惑はかけないこと等を丁寧に説明する手紙をお送りし、理解を得るように努めた。
そのおかげか、訴状を受け取った大部分の相続人からはクレームが寄せられることもなく、時間はかかったものの、それでも比較的スムーズに手続きを進めることができた。