賃借人が数ヶ月家賃(賃料)滞納をしたので、契約の解除や家賃の請求をしようとしたところ、賃借人が「死亡した」場合、どのような手続きをすれば良いでしょうか。誰に対して、何をどのように行えばよいのか、手続きを見ていきます。

賃借人の相続について

まずは、相続人は誰か?という問題があります。当の本人は亡くなっているので、誰が相続をしたか確認をする必要があります。
誰が相続人になるのかは民法で決められており、これを「法定相続人」と呼びます。

法定相続人の範囲

1 配偶者(夫・妻。なお、相続開始前に離婚した過去の配偶者に相続権はありません)

2 血族
(1)直系血族
①直系尊属:父母・祖父母・曾祖父母・玄祖父母
②直系卑属:子(胎児や養子、非嫡出子も相続人になります)・孫・曾孫・玄孫

(2)傍系血族:兄弟姉妹・姪・甥

法定相続人の優先順位

民法は誰が相続人になるのかだけではなく、その範囲内での優先順位も定めています。

■第1順位の相続(被相続人に子があった場合)
→子と配偶者が相続します(配偶者が死亡している場合には、子のみが相続)。

この場合、被相続人の父母や兄弟姉妹には相続権はありません。

■第2順位の相続(被相続人に子がなかった場合)
→父母と配偶者が相続します(配偶者が死亡している場合には、父母のみが相続)。

この場合、被相続人の兄弟姉妹には相続権はありません。

■第3順位の相続(被相続人に子がなく、父母は既に死亡している場合)
→兄弟姉妹と配偶者が相続します(配偶者が死亡している場合には兄弟姉妹のみ)。

まとめますと、
➀被相続人の配偶者(妻・夫)は常に相続人になりますが、
➁被相続人の血族については、現に存命している血族の顔ぶれにより、誰が相続人になるかが変わる
ということです。

相続人に対する連絡について

まずは相続人の連絡先を調べる必要があります。
正当な理由のある利害関係者として、住民票や戸籍を取得することが考えられますが、よほど慣れた方でない限り、個人で調査するのは難しいように思われます。

弁護士であれば、職務上請求という方法で、戸籍などを取得し、相続人の住所を特定します。そうして、相続人に連絡をします。

相続人の誰に連絡をすれば良いか

賃貸借契約は、相続人に承継されることになります。相続人が一人であれば、その方に連絡・請求をすることになります。

それでは、相続人が複数おり、共同相続となっている場合はどうでしょうか。

相続人が複数いるときは、相続人全員は同相続人となります。そして、遺産分割協議前は、賃借権も「共有」されていることになります。
共有状態の賃借権の賃貸借契約を解除するには、賃貸人は、共有者全員に対して、催告や解除の通知をする必要があります。

もちろん、話し合いの取っ掛かりとして、相続人の誰か一人にだけ連絡するという状況もあり得るでしょう。

借主が死亡した場合は、原則として、借主の相続人全員を、相手にしなければならないという点が重要です。
なお、遺産分割協議により、特定の者だけが賃借権を引き継ぐのであれば、その者とのやりとりで足りることになります。

滞納賃料について

相続は、原則として、法定相続分通り、債権と債務を承継します。
したがって、相続人が一人であれば、債務を100%承継するので、全額を相続人に請求できます。
相続人が複数人いる場合は、相続分にしたがって、各人に相続分の限度で請求ができます。
相続人は、上に記載したとおりです。
例えば、相続開始前の滞納賃料が100万円で、夫が死亡、妻と子が一人いるケースでは、
妻の相続分が2分の1、子の相続分が2分の1なので、50万円ずつ、滞納賃料を請求することになります。

ただし、「相続放棄」された場合は、相続人ではなくなるので、相続放棄の有無はよく確認する必要があります。

相続開始後の滞納賃料

相続開始後も賃料が支払われない場合(契約解除をしても明け渡してもらえない場合の損害賠償も含む)は、賃料は「不可分債務」と考えるので、賃貸人は各相続人に対し、家賃の全額の支払いを請求することができます。
つまり、一人に対して、全額の請求をすることができます。もちろん、一人の相続人に払ってもらった場合、他の方から二重に取ることはできません。
遺産分割協議前に弁護士が請求するとすれば、相続人全員に、一斉に通知をだすことが多いでしょう。

賃料滞納による明渡しの方法について

こちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
■明渡の手順
https://www.g-fudousan.jp/yachintaino/column/20221024-2/

■賃料不払いが起きたときにオーナーがやるべきこと
https://www.g-fudousan.jp/yachintaino/column/20220922-1/

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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