紛争の内容
依頼者は、平成21年に、上記各債務名義である判決を取得。同債務名義に基づき、建物収去土地明渡の強制執行を申立てるが、収去費用の莫大さに、申立取り下げた。
当該土地周辺が、蕨市の区画整理事業の対象となり、建物所有者には同建物を除却すれば、補償金が支出されるが、所有者名義人は長らく所在不明。同人の所在調査を経て、判明しなければ、正攻法である建物収去土地明渡の再申立か、違約金に基づく土地上の建物の競売申立てによる建物取得を目指し、所在調査。
所在調査をする中で、代理人の通知文の転送を受けた建物所有者が、蕨市に相談。蕨市区画整理課から、依頼者に連絡、その後、示談交渉となる。
交渉・調停・訴訟などの経過
① 所在調査の結果、建物所有者は、建物所在地に住民票をおいたまま。建物賃借人は死亡し、相続人を調査した。
② 住所地宛に郵便を発したところ、転送手続を経て、さいたま市内において、生活保護受給者である建物所有者が郵便を取得。
③ 同人が、蕨市に相談。蕨市区画整理課から、依頼者に連絡を経て、代理人に連絡。
④ 同人は、転居先を明らかにせず、蕨市からの連絡も、住民票所在住所宛の転送郵便物によった。
⑤ 同人は、依頼者地主との直接面談を固辞。
⑥ 他方、さいたま市福祉は、建物除却による補償金は、福祉への償還に当てられるべきと主張。
⑦ 蕨市は、さいたま市と事前協議するか検討したが、結局、協議せず。
⑧ 蕨市としては、区画整理事業の実現を第一とし、除却保証金は、除却結果を確認してからのとなるので、地主である当方依頼者への関与を求めた。
⑨ 平成29年9月、所有者は脳疾患により、入院手術リハビリを経て、11月、蕨市役所において、本件除却、補償金の各受取りについての合意書確認。
⑩ 本年3月末までに除却することを条件に補償金1300万円弱の支払。うち、当方依頼者が900万弱を受け取る内容の合意。
⑪ 当初は、依頼者は、建物所有権の譲渡を受けられない場合には、正式手続きを経て、建物収去するために300~400万円前後の自己負担を覚悟したが、裁判外の取り壊し費用は200万円弱、違約金は1000万円以上請求できる債務名義を有していたが、900万円弱の経済的利益を得た。
⑫ なお、建物収去義務を負う本件建物を競売で落札した場合には、売却基準価格も、それを踏まえて算定されるという。他方、単に、建物収去土地明渡の債務名義を有しているだけでは、地主に対して、除却補償金も発生しない。
⑬ 蕨市としても、地主の債務名義による権利実行をいつまでも待てず、解決方法としては、地主から、土地証券を有償取得すること(これにより、債務名義の権利も移転する)があるが、区画整理事業においては、土地取得が不要な本件解決よりも、多額の費用が発生する。
よって、本件解決は、収去義務を負う建物所有者、収去権をもつ地主依頼者、区画整理事業主体である蕨市の経済的負担の調整がなされたものである。
本事例の結末
上記のとおり。
本事例に学ぶこと
① 建物収去土地明渡請求は、強制執行費用がネックになる。
② 区画整理事業の進捗とのタイミングが良かった。
③ 生活保護者が郵便物の転送を手続きを取っていたことから、蕨氏、当方依頼者の連携が取れた。誠に運が良かった。