紛争の内容
市の公売処分により、土地建物を落札した所有者が、前所有者が任意退去してくれないため、訴訟を提起し、判決を債務名義として、土地建物明渡の強制執行をし、土地建物の占有を回復した事件
交渉・調停・訴訟などの経過
依頼者は、市の公売処分により落札した土地建物に居座っている前所有者に対し、面談を求め、しばしば本件建物を訪問するも、面談することがかなわなかったとのことです。
近隣の方にお聞きすると、確かに住み続けているとのことでしたが、勤務先などは知らないとのことで、裁判所の手続をとり、土地建物の明渡実現を求められましたので、ご依頼を受けました。
まず、居住者である前所有者宛に、任意の退去明渡を求め、内容証明郵便と特定記録郵便にて、連絡しました。
内容証明郵便は保管期間経過で返還されました。
郵便受けに投函された特定記録付き郵便の文面を確認していれば、当事務所に電話いただけるはずと期待しましたが、電話もかかってきませんでした。
そこで、訴訟を提起しましたところ、やはり、訴状などの副本も被告となった居住者は受け取りませんでした。
裁判所から、送達場所である本件土地建物についての居住調査を命じられました。
日曜日に現地を訪問しましたところ、やはり、留守でした。
そこで、隣家の方に、本件建物居住者について聞き取りをしました。
隣家の方は、お庭で家族でバーベキューをされていたようで、旦那さん、奥様、娘さんなどからお話を伺うことができました。
隣家の方はその地に引っ越してきて10年弱とのことでしたが、そのころから現在まで、被告はお一人で住み続けており、伺った当日の朝も、魚を焼いている臭いがし、毎日いらっしゃるとのことでした。
屋根付きのカーポートがありますが、そこに原付バイクがなかったことから出かけているのだろうが、仕事は何をしているかはご存じないとのことでした。
そこで、住民票の異動がないこと共に、上記の調査報告書を作成して、書留郵便を発する方法による送達の申請をしました。
第1回口頭弁論期日の前日に、裁判所から被告答弁書がファックスされました。
話し合いの希望がありましたが、期日当日に、被告本人が出頭するかは不明でした。
第1回口頭弁論期日に裁判所に出頭しましたところ、期日開始時間ギリギリに被告本人が出頭しました。
裁判官から、話し合いを望んでいるが、いつまでに任意に退去できることを確約できるか問われた被告は、早く退去しなければならないのはわかっているが、まだ、転居先のめどが立っていないとの回答でした。
そこで、被告との話し合いは裁判所外で行うこととし、審理の終結と判決の言渡しを求めました。
法廷を出て、被告と話しましたところ、私が送った手紙はすべて読んでいたが、連絡できなかったとのことでした。
そこで、私からも連絡を取りたいので、携帯電話番号をお聞きすると、今は持っていないけれど、翌週には入手するので、入手したら私に電話しますと説明しました。
しかし、翌週になっても、被告から電話もなく、また、手紙もありませんでした。
そこで、依頼者と相談し、判決を受けたら、すぐに強制執行申立て準備をすることとしました。
やはり、被告から電話連絡もないため、準備が整い次第、土地建物の明渡の強制執行を申立てました。
明渡強制執行の催告期日に、現場に臨場したところ、被告(債務者)は在宅していました。
執行官から、この催告期日のちょうど1か月後に、明渡を断行する期日となる旨定められ、被告債務者に説明がなされました。
私からも、その断行期日前に転居先が確保され、引っ越しが終了したら連絡が欲しいとお願いしました。
断行期日の2日前に、債務者から公衆電話を使って、私宛に電話がありました。
断行期日後の週末には引っ越し先が確保できるので、断行期日を延期してほしいとの要望でした。
引っ越し先が確保できたのであれば、賃貸借契約書をコンビニからファックスしてくれれば、対応を考えると回答しましたところ、わかりましたと応答してくれましたが、契約書のファックスはありませんでした。
断行期日を変更することなく、当日、現場に赴きましたところ、原付バイクがなくなっており、また、玄関ドアの鍵もかけないまま、どこかに出て行ったようでした。
執行補助業者の方が作業をしました。
残置された動産類は無価値と判断され、その内でも、すぐに廃棄処理をしなければならないようなものだけを搬出してもらいました。
残置動産は、本件建物の取り壊しの際に合わせて廃棄処理することとして、執行補助業者の費用を節約しました。
本事例の結末
断行期日は無事終わりました。
また残置動産は翌月中旬まで建物取壊しをしないとのことでしたので、事実上現場保管したままとし、仮に、債務者から連絡があったら、その都度対応することとしました。
しかし、まったく連絡はありませんでした。
本事例に学ぶこと
前所有者の滞納税金等により、市の公売処分に伏せられた物件から、前所有者が任意に退去してもらえない場合には、裁判所における競売手続きで不動産を落札取得した場合と異なり、引渡命令の制度がありません。
よって、一から訴訟を提起しなければなりません。
送達場所の現地調査の問題がありましたが、調査の結果、居住確認でき、附郵便送達により、手続は粛々と進みました。
判決を得て、強制執行におり、ご依頼からできるだけ早期に現所有者の方に明渡済みの土地建物を引渡しすることが実現できました。
弁護士 榎本誉