紛争の内容
マンションの1階を店舗として貸している大家さんからのご相談でした。
賃借人は、賃料支払いの遅れが常態化しており、私たちが関与した時点では、4ヵ月分まったく賃料の入金が無い状態でした。
大家さんは、可能な限り早く出て行ってほしいというご希望でした。
交渉・調停・訴訟などの経過
賃借人が賃料を滞納したとしても、直ちに明け渡しが出来るわけではないので、まず、滞納賃料全額を支払うよう請求し(「催告」と言います)、催告した期間内に支払が無い場合には賃貸借契約を解除する旨の連絡を手紙で行いました。
店舗は既に実質的には営業していなかったので、この賃借人の住所にも、手紙を送りました。
また、この賃借人は、刑事事件で勾留されているとの管理会社からの情報だったので、勾留先にも手紙を送りましたが、いずれにしても、入金がありませんでしたので、契約は解除となりました。
更に、この件は、賃借人以外の人物が店舗に出入りしているとのことであり、実際に、テンポにはその様な形跡があったので、占有移転禁止の仮処分を行いました。
この、占有移転禁止の仮処分の説明をします。
裁判の判決は、ある人(例えば「A山B夫」)名義に命令が出されます。
ですから、ある建物「マンションα101号室」を明け渡せという命令も、A山B夫に出された場合、実際にマンションα101号室に居住しているのが甲野花子だった場合には、その判決は意味を持たないのです。
そこで、現在住んでいる人を特定したり、住んでいる人が他の人を入居させて建物の使用を移転(「占有の移転」)させることを防いだりすることを目的に、「占有移転禁止の仮処分」によって、占有者(建物の使用者)を特定するのです。
この特定があれば、判決までの間に別人が建物を使用したとしても、特定された人物宛の判決で強制執行ができます。
本件では、占有移転禁止仮処分の結果、現地に行き、賃借人以外の占有の形跡はありませんでしたので、賃借人を相手に明け渡しを求めて提訴しました。
なお、訴訟提起に際しては、店舗に加え、建物に隣接する土地の明け渡しも求めました。
これは、この土地に、賃借人が経営していた店から出た大量のごみや部品が山積みにされていたためです。
本事例の結末
賃借人は裁判の期日には出頭しなかったので、大家さんの言い分通りの判決が出ました。
その後も、賃借人は、店舗と土地を明け渡す様子が無かったため、強制執行の申立てをし、催告を行いました。
催告とは、裁判所職員である執行官が、任意の明け渡しを求めるため口頭で明け渡しを請求し、強制的に物を搬出する明渡断行期日(催告から1カ月以内と決まっています。)を決める手続です。
催告後、少しは荷物が減ったようでしたが、全ての荷物の搬出が無く明け渡しがされなかったので予定通り明け渡し断行を行い、解決しました。
本事例に学ぶこと
大家さんとしては、賃料を滞納している入居者については、一日も早く明け渡してもらうことが最善と思われます。速やかに明け渡しの手続きを行うことが必要です。
また、他人に占有を移転してしまう可能性があるような場合には、躊躇わずに、占有移転禁止仮処分を行うことが必要です。
弁護士 野田 泰彦