A社は、店舗として建物を借りていたのですが、業績不振のため賃料を支払うことが出来なくなってしまい、賃貸人から承諾を得ることなく、B社に転貸(又貸し)してしまいました。

この様な場合、賃貸借契約を結んだ賃借人(A社)に対して明渡しを求めるだけでは不十分で、転借人(B社)に対しても明渡しを求める訴訟を起こす必要がありますが、A社への訴訟をやっている間に、B社が更に第三者に対して転貸をしてしまう、ということもあり得ます。そうすると、その第三者に対しても、訴訟を起こさなければなりません。

そこで、役に立つのが占有移転禁止の仮処分です。これを行うと、仮処分以降に占有を取得した人に対しても、新たな訴訟を起こすことなく建物明渡し請求訴訟(本訴)の勝訴判決に基づいて、建物を明渡してもらう強制執行をすることができます。

本件でもA社は賃貸人に対し月額の賃料が支払えないほど経済的に困窮している様子であり、B社もまた賃貸人に何の断りもなく本件建物を使用し、賃料も支払っていませんでしたから、B社がA社と同じように、第三者に占有を移して賃貸人の明渡しを妨害することは十分考えられましたので、賃貸人代理人弁護士から占有移転禁止の仮処分の申立てをしました。

仮処分の申し立て時には、以上のような占有移転の危険性がある状況であることを疎明(裁判官に、一応確からしいという心証を抱いてもらうこと)し、建物明渡し請求訴訟で争っている間に本件建物の占有が第三者に移転しないように、裁判所から仮処分の執行(他の者に占有を移転してはならず、執行官という裁判所の人間に建物の保管権限があることを公示する書面を建物内に貼る)をしてもらうことにし、その仮処分後、A社及びB社への訴訟を進めて、無事建物の明渡しをしてもらうことができました。

残念ながら日本の訴訟手続は時間がかかる場合も多いので、訴訟をやっている間に目的物についての権利関係が変わってしまうおそれが高いという場合には、仮処分は非常に有効な手続といえます。