紛争の内容
依頼者は、賃貸マンションはサブリース会社の一括借上げを受けていますが、付帯の駐車場は、その管理のみを不動産会社に依頼していました。
管理会社の担当者は、駐車車両の名義人に対し、同車両の引揚を求める通知を複数回出しましたが、一向にその名義人は車両を引き上げませんでした。
そのまま放置車両は引き上げられず、また、いつの間にかナンバープレートも取り外され、その後数年が経過してしまいました。
不動産管理会社の営業所長の交代に伴い、管理物件の洗い出しを行ったところ、本件長期放置車両と本件駐車箇所の長期貸し出しが不能状態にあることも判明しました。
そこで、同管理会社より、本件車両の搬出の土地明渡請求事件の対応の可否と、弁護士費用、強制執行、執行補助者費用の概算を求め、相談され、費用見積もり(強制執行費用、特には搬出引き上げの費用は過去の事案から算出しました)差し上げ、土地所有者方からのご依頼に至りました。
交渉・調停・訴訟などの経過
当該放置車両により、土地駐車場所有権が侵害されていますから、その妨害を排除するため、土地所有者に説明の上、了解を得、ご依頼いただきました。
ご依頼を受け、まず、ナンバープレートから、本件車両の登録名義人を弁護士会照会制度を利用して、管轄陸運局から、登録事項証明書を取得しました。
同証明書の所有者欄記載事項から、本訴訟の訴状などの送達場所調査として、都区内の区役所に宛てて住民票を職務上請求しましたところ、同名義人はすでにお亡くなりになっていることが判明しました。
そこで、相続人調査を行いましたところ、北海道内に唯一の相続人がいらっしゃることが判明しました。
相続人の方に、本件車両の引揚を求める通知を、内容証明郵便と特定記録付き郵便で発送しましたが、内容証明郵便は保管期間経過で、発信人に戻ってきてしまいました。
また、確認しているであろう特定録郵便を受けた相続人からも何の連絡もありませんでした。
そこで、相続人を被告として、本件駐車場区画の明渡を求める民事訴訟を提起しました。
裁判所は、被告である本件自動車の名義人の相続人に対し、訴状副本などを特別送達しましたが、保管期間経過で裁判所に戻ってきてしまいました。そこで、休日に送達してほしいとの、休日送達の上申をし、再度、裁判所に送達してもらいました。
しかし、これも、受け取りにならず、裁判所に戻りました。
本事件担当の裁判所書記官から、被告の方の仕事場所を知っているかと問合せがありましたが、車両名義人の相続人であることが判明しているだけで、仕事場(就業場所)は知らないと回答しましたところ、裁判所書記官から、本件送達場所における、被告の居住調査を指示されました。
被告とした相続人の住民票上の住所は、北海道内の最寄り空港から、一般道で片道190キロほどある遠隔の地でした。同空港と、住民票所在地の町役場との間には、毎日一往復のバス便がありますが、調査に要する時間を得るためには、同地で宿泊するか、空港最寄りの町で宿泊し、翌日調査をする可となりましたが、フレキシブルな、空港所在の都市で宿泊し、翌日調査に充てることとしました。
担当弁護士のスケジュールを調整して、金曜日の最終便で、最寄り空港に向かい、同空港でレンタカーを借り出し、翌日に、現地到達後調査時間から3時間の調査時間を確保し、最終の羽田空港行きで戻れるように航空便を予約しました。なお、この費用と日当は依頼者様にご負担していただくことになります。
住民票所在地の、共同住宅を訪問したところ、被告は在室しておらず、並びの居室の入居者の方からお話を伺ったところ、同居室には一人暮らしをし、仕事場は数百メートル離れた総合スーパーであると説明を受けました。
最新の住民票とともに、この調査結果を裁判所に報告し、再度の送達を申請しました。
すると、またしても、裁判所からの訴状副本などを受け取っていただけませんでした。
そこで、勤務先のスーパーに電話して、被告を呼び出してもらい、自宅宛てに書類を受け取ってもらえないと、「就業場所送達」といって、勤務先スーパーを宛所として送達するよう裁判所に求めなければならないから、ぜひとも自宅で送ってもらいたいとお願いしました。
この顛末を裁判所に報告し、再々度の送達を申請しました。
ところが、今度は自宅住所宛が「宛所不明」として、裁判所に戻ってきたとの連絡がありました。
裁判所書記官が、送達実施機関である日本郵便に問合せをすると、本訴状の送達と行き違いに、郵便物の転送届がでており、再度、裁判所が発すれば、転送先に配達され、被告は同郵便を受け取るはずとなりました。
そこで、もう一度、調査地の住所地に宛てて、特別送達がなされました。
無事送達がかないましたが、裁判所より、被告の最新の住民票の取得、提出を促されました。
被告からは、第五回口頭弁論期日直前に、答弁書が提出され、被告自身は転居先の住居を送達場所と申請しました。
被告の答弁書には、事実は争わず、話し合いによる解決を希望する旨述べられていました。
当方は、審理終結による判決の言渡しを求めました。
裁判所は、審理を終結し、その二週間後、本件土地を明渡を命じる判決を言い渡しました。
本事例の結末
本判決を債務名義として、土地明渡の強制執行を申し立て、催告期日、断行期日が行われました。
本件車両はナンバープレートが取り外されていましたが、車両は施錠もされておらず、また、車両内にはほとんど物品は残されていませんでした。
ボンネットを開け、車両に打刻されている車体番号と、車検証上の表記を照合し、間違いないことが確認できました。
断行期日には、本件車両は本件駐車場区画から、積載されて搬出されました。
また、日本自動車査定協会の査定で「0円」との査定があり、本件車両は廃車処分となりました。
本事例に学ぶこと
賃貸駐車場の土地に、車両を停めっぱなしにし、さらに長期間放置する事案が散見され、相談を受けます。
駐車場への違法駐車は、道路交通法による駐車違反となるものでないことから、最寄りの警察署に相談しても、弁護士さんに相談されたいとされるのが一般です。
そして、あまりの長期間の放置があったため、駐車場管理会社、駐車場の土地所有者は、重い腰を上げ、本件ご依頼に至り、解決に至ったものです。
訴状副本などの送達がかなわなくて、また、相続人が遠方にいて、調査にお時間・費用がかかりましたが、手続にのせれば、スムーズに進みました。
土地の明渡訴訟の提起、そして、その判決を用いての強制執行、執行補助業者による搬出、廃車処分までの一連の手続は弁護士にとっては、粛々と手続きをとることが可能でありますので、ご相談・ご依頼ください。
弁護士 榎本 誉