紛争の内容
アパートを貸している大家さんからのご相談でした。ご相談時には,5か月分の賃料が滞納されていましたので,明渡しを求めたいとのことでした。なお,アパートには賃借人以外にも不特定の人物が出入りしている様子があるとのお話でした。

交渉・調停・訴訟などの経過
私たちは,直ちに賃借人に対して滞納賃料を支払うことを求め,一定期間内に支払がない場合には賃貸借契約を解除する旨の通知書を内容証明郵便で発送しました。しかしながら,滞納賃料は支払われませんでしたので,建物明渡しを求める訴訟を提起することを決めました。
なお,本件では,対象物件に不特定の人物が出入りしている様子があるとのことでしたので,訴訟に先行して,占有移転禁止の仮処分を申し立てました。

本事例の結末
占有移転禁止仮処分の申立後,約9日後には,執行官と共に対象物件に出向き,保全の手続を済ませました。保全の手続とは,具体的には,執行官が実際に対象物件の中に入り(留守であればスペアキーや鍵の専門家に空けてもらいます),公示書を部屋内の見やすい位置に貼り付け,対象物件の占有移転を禁止し,執行官の保管であることを公示して行われます。
その後,速やかに建物明渡しを求める訴訟を提起しました。
なお,ここまでに要した時間は,手続を受任してから約1か月という短期間でした。
すると,訴訟を提起した後すぐに賃借人が退去したことが判明しました。
ご依頼者は,未払賃料を回収することまで予定していませんでしたので,訴訟を取り下げて,本件は終了となりました。

本事例に学ぶこと
占有移転禁止仮処分は,対象物件の占有者が変動する可能性がある場合に検討すべきです。
これは,賃借人を被告として明渡し訴訟を提起した場合に,訴訟の途中で占有者が変わっていたときは,勝訴判決が出たとしても,賃借人を被告とする当該判決に基づいて,明渡しの強制執行(国家が関与して,債権者の権利を強制的に実現すること)ができないからです。
本事例では,不特定の人物が出入りしている様子があり,占有者が変わる懸念がありましたので,直ちに保全の申立を行い,滞りなく,占有移転禁止仮処分が実施されました。
保全の当日,賃借人は留守でしたが,予定どおり公示書を掲示してきましたので,賃借人にとっては心理的な圧力になったと思います。なお,この時にはまだ生活感が残されていましたが,訴訟を提起した後,もぬけの殻となっていましたので,保全のための手続が,結果として賃借人の退去を促す結果に繋がったものと評価できます。
ところで,賃貸借契約は,継続的な賃料収入が得られる反面,賃借人が支払いを怠る場合には,その分の損失が積み重なることになります。
賃借人に(強制的に)出ていってもらうためには,明渡しを求める訴訟を提起し,勝訴判決を得て,強制執行という段階を踏まなければなりません。
このような一連の手続には,通常,弁護士が受任してからも一定の期間がかかります。

グリーンリーフ法律事務所は,建物明渡しについて豊富な経験があります。
お困りのオーナーさんや管理会社様は,速やかに当事務所までご相談いただいて損はありません。

弁護士 田中 智美