紛争の内容
Aさんは、10年程前から、その所有するアパートの一室をBさんに月額8万円で賃貸してきたが、Bさんからの賃料の入金が滞るようになり、10か月分が未払いの状態になった。
実際に部屋に訪ねて行くとBさんの妻がいることはあるが、Bさんとは直接会うことができず、電話もつながらない状態となってしまった。
Aさんは物件の明渡しを求めて弁護士に依頼した。
交渉・調停・訴訟などの経過
弁護士から、Bさんに、これまでの未払賃料を一括して支払わなければ賃貸借契約を解除する旨の内容証明郵便を送ったが、期限内に支払いがなかったため、契約は解除となった。
続いて、物件の明渡しを求める訴訟を裁判所に提訴。
Bさんは裁判に出頭して来ず、裁判は1回で結審となり、明渡しを命じる判決を言い渡された。
判決後、直ちに強制執行に着手する必要があるかとも思われたが、Aさん(及び管理会社)が、Bさんの妻と話をしてみるとのことで、すぐには強制執行を申し立てず、様子を見ることにした。
本事例の結末
Bさんが荷物をまとめて転居し、強制執行の費用をかけずに物件の明渡しを受けることができた。
本事例に学ぶこと
明渡しを命じる判決が出た後も、賃借人が物件に住み続けている場合、判決に基づいて強制執行を申し立てなければならないが、その強制執行にかかる費用は(室内の家財や荷物の量にもよるが)高額になりがちで、オーナーにとっては重い経済的負担となるケースが多い。
しかし、賃借人(またはその家族)と話ができる状況であれば、任意の退去を促してみるのも一つの方策であり、現に、本事例では、Aさんや管理会社から明渡しの要請を受けたBさんの妻が、Bさんの背中を押し、自ら引越業者を手配して引っ越してくれたため、Aさんは高額な強制執行費用の負担を免れることができた。
弁護士 田中 智美