紛争の内容
1 土地賃借人に相続が発生し、配偶者は施設に入居、長男が土地上の建物に居住しつづけるも、地代を長期間にわたり滞納しているため、借地関係を解消し、更地返還を求めた事案。
2 地主賃貸人側から通知を差し上げたところ、賃借人(の一人)に代理人弁護士が就任し、滞納賃料を支払うから使用を続けたいと返答がありましたが、交渉が一向に進まず、やむを得ず、訴訟提起した事案です。
交渉・調停・訴訟などの経過
1 土地上の建物の相続登記はなされていません。借地権についての遺産分割の結果の報告を受けていませんでした。
2 借地契約名義人の相続関係を調査し、全相続人宛に、未払賃料の支払いを催告する書面を送付しました。催告した期間内に、支払はありませんでしたので、借地契約は解除となりました。
3 そこで、借地契約名義人の全相続人を被告として、裁判所に、更地明け渡しを求める訴訟を提起しました。
4 示談交渉時の代理人が、全相続人の被告訴訟代理人に就任しました。
5 借地上の建物に居住する長男は、多重債務を負い、自己破産申立て予定であるとのことであり、また、就業不能であるので、生活保護申請中であって、受給決定を受ければ、本件訴訟も踏まえ、転居することが可能であるとの返答でした。
6 そして、本件建物については、長男に単独相続させる遺産分割協議を整えるので、他の相続人らに対する請求は勘弁願いたいと要望されました。
7 依頼者の方は、滞納地代総額で、本件借地権を買い取り、地主賃貸人側で本件建物の取り壊しを行いたいと提案しました。
8 建物所有権は、被告の一人が相続登記を経て、地主が滞納地代相当額で取得することとなりましたが、建物内や、土地上の植栽の伐採・伐根、大きな庭石の撤去などの費用負担が問題となりました。
9 建物の相続登記を済ませ、同建物を地主は譲り受けることになりましたが、建物内の残置動産の搬出、その他土地上の植栽、庭石撤去費用の見積もりを得ましたところ、やはり、古家建物の解体取壊し費用と併せると総額数百万円がかかることが判明しました。
10 そこで、撤去費用の一部の負担を他の相続人に求める内容での支払いを約束してもらい、被告全員が連帯して負担する内容としました。
本事例の結末
建物内の残置物を全部搬出し終わるタイミングを見計らって、建物相続人らの本件建物撤去義務を実質的に免除する代わりに、土地(底地)上の、植栽の伐採・伐根費用、庭石搬出費用の一部相当額を分割負担してもらう内容で和解しました。
本事例に学ぶこと
本件借地関係においては、地主賃貸人の側にも相続が発生し、その後、借地人においても相続が発生しました。
双方の先代同士においても、相当長期間にわたる関係でもありましたので、相続した地主側としても、賃借人との関係を維持するには吝かではなかったのですが、決して高額でない地代を相当年月滞納され、その改善の見込みもないまま、時間だけが過ぎました。
相手方には代理人弁護士が就任しましたが、結果、時間稼ぎの手段のような印象を受けました。
訴訟提起後には、土地上の建物の譲受による処理を選択いただき、建物収去土地明渡の強制執行となるのをできるだけ回避したいという、依頼者の意向に沿った和解による終結となりました。
月額地代は高額でなくとも、数年間の地代滞納は、結構な金額となります。借地の明渡を求めるにも、借地人に落ち度がありますと、話し合いを有利に進めることができます。
弁護士 榎本 誉
弁護士 木村綾菜