紛争の内容
相当期間の賃料滞納による賃貸借解除に基づく建物明渡請求事件
本件賃貸借には、保証会社がついていましたが、保証会社からの求償請求にも応じない入居者に対するものです。

交渉・調停・訴訟などの経過
賃貸人オーナー様からご依頼を受け、未払賃料を相当期間(通常5日間と設定しています)と定めて、未払賃料等の支払いを求め、支払がない場合には、賃貸借を解除する旨の通知を内容証明郵便、そして投函記録の残る特定記録付き郵便にて発しました。
滞納賃料の催告の書面を受け取らないし、再配達手配もしない、不誠実な賃借人があるため、念のために、投函記録の残る郵便でも催告します。
やはり、内容証明郵便の通知書は受け取りませんでした。しかし、特定記録付き郵便は投函され、通常であれば、同郵便を確認するはずでありますので、催告の効果が出たと考えます。
やはり、催告期間に入金はなく、本件建物賃貸借は解除されました。
速やかに、訴訟提起をし、裁判所から被告宛に、訴状などの副本が特別送達されましたが、やはり、受け取りませんでした。
裁判所より、居住の有無や、勤務先を調査するよう指示がありました。
契約書や入居申込書記載の勤務先に文書で問い合わせましたが、退職済、転職先は不明との回答がありました。
よって、就業場所を送達場所とする特別送達の再送達をすることはできませんでした。
並行して、本件居室を現地調査すると、本件建物の電気メーターは動作しているなど、その他本件建物には居住の継続が認められ、また、隣室の方からも、居住しているとの情報を得ました。
そこで、上記の調査報告書を添えて、書留郵便にて発する送達により、訴状副本などを送達されたい旨、申請しました。
訴状などが送達されましたが、被告は、第1回口頭弁論期日に出頭もせず、答弁書も提出しませんでした。
そこで、被告は、本件請求を争わないものと認められるとし、審理は終結され、翌週には、原告の求める通りの判決が言い渡されました。
明渡命令の記された判決を債務名義として、建物明渡の強制執行を申し立てました。
執行官と、明渡を求める告示書を貼付するための、催告期日を調整し、同期日に現場に臨みました。
建物強制執行においては、債務者が入居していない可能性、さらには、玄関ドアのかぎが交換されている恐れもあり、解錠業者を手配同行します。また、搬出動産の手続き費用の見積もりのために、強制執行の補助の専門業者にも同行してもらい、見積もりを作成依頼します。
これらを手配し、現場に臨場しました。執行官と共に、貸室玄関のインターホンで債務者を呼びますが、不在です。そこで、執行官が、玄関ドアノブをひねると、施錠されておらず、ドアは開きました。
しかし、債務者は、不在であり、執行官の権限で入室し、債務名義に表示された被告本人の占有の確認を行いました。執行官は、債務者宛の公共料金などの郵便物のあて名などを確認して、認定します。
債務者の占有が確認され、明渡の断行執行の手続期日を調整しました。
民事執行法により、1か月以内と定められており、その期間内の日時を指定し、告示書も貼り、入室すれば、債務者の目につくようにました。
断行期日当日まで、債務者から申立債権者、代理人などには何の連絡もありませんでしたが、断行期日の前々日の週末に、債務者が引越し作業をしていることが本物件の管理業者に連絡がありました。
債務者は、断行期日を前にして、自ら引越したようです。
しかし、残置動産は、債務者の所有であり、債権者として、勝手な処分ができない以上、強制執行手続きを続行し、断行期日が予定通り行われました。
数点の残置動産がありましたが、執行官は換価価値なしと判断し、すべて廃棄処分とすることになりました。
玄関の鍵を交換し、スペアキー一式を臨場したオーナー様、本マンション管理業者担当者に交付し、再施錠して、債権者は、本件建物専有を回復しましたので、本断行執行を終了しました。

本事例の結末
年度末、新型コロナウィルス禍における、まん延防止措置などがとられている状況でしたが、手続きは粛々と進み、明渡が実現しました。

本事例に学ぶこと
未払賃料の催告、未入金の場合の賃貸借解除の通知の速やかな発送、解除成立後の速やかな訴訟提起、送達の問題の、附郵便送達のための調査報告などを行い、訴訟手続きに速やかに乗せ、獲得した債務名義による強制執行申立てと一連の流れをよどみなく行うことで、賃貸物件の速やかな明渡の実現、損失拡大のできるだけの防止、早期の新規客付けにつながります。善は急げです。

弁護士 榎本 誉