紛争の内容
賃貸人Aは、6年程前から、Aの所有する戸建て住宅を、賃料月額15万円で賃借人Bに賃貸してきました。
しかし、令和2年に入ってBが3か月以上賃料の支払いを怠ったため、Aは賃貸借契約をいったん解除したうえで、建物の明け渡しを求める訴訟を提起しました。訴訟提起後、Bがそれまでの未払賃料全額を支払ったため、AはBの希望を受け入れて、それ以降も賃貸借契約を継続することとし、次は滞納金額が30万円に達した時は直ちに契約を解除する旨の和解をしました。
Bはしばらくの間はきちんと遅れることなく賃料を支払っていましたが、令和5年になって支払いが遅れがちとなり、滞納金額が30万円に達したことから、Aの依頼を受け、建物明け渡しの強制執行を申し立てることになりました。
交渉・調停・訴訟等の経過
令和2年の裁判の時に取得した和解調書に基づき、建物明け渡しの強制執行を申し立てました。
1度目の催告執行で現場に行くと、Bは家族とともに物件に居住していましたが、この事態を受け入れ、「引越の準備を進めます」と協力的な態度でした。
そこで、1か月後に断行執行の期日を定めたものの、Bの引越のスケジュールを勘案してその日は続行期日とし、さらに先の日程を最終の断行期日(執行業者が建物内から荷物等を実際に搬出する日)と定めました。Bから引越完了の連絡が来たら、現地を確認し、強制執行を取り下げる予定としました。
本事例の結末
予定どおり、Bは最終の断行期日前に引越を完了したため、Aは強制執行を取り下げて、事件終了となりました。
本事例に学ぶこと
和解調書に基づく明渡の強制執行という珍しい案件でした。
賃借人が非常に協力的で、任意に物件を明け渡してくれたため、賃貸人としても断行執行をした場合の費用(執行業者にかかる荷物搬出・保管・処分等の費用)がかからず、経済的な負担を最小限に抑えることができました。
弁護士 田中智美