紛争の内容
3階建て共同住宅の1階の居室を新築時から6回の更新、14年あまり賃借していた法人に対し、建物明渡の債務名義を得て、強制執行を申し立て、催告期日に臨んだところ、郵便受けの表札には別の企業名が表示され、居室に入り、占有者を確認したところ、賃借名義人の法人の代表者の配偶者が賃借企業とは異なる事業をして、使用していることが判明し、占有移転禁止の仮処分を申し立て、改めて、本件居室の占有者である法人、賃借名義人法人の代表者の配偶者に対して、明渡訴訟を提起し、債務名義を得て、強制執行をし、明渡を実現した事案。
交渉・調停・訴訟などの経過
依頼者は、本件共同住宅全体を賃借しているサブリース会社です。
同社は、共同住宅の新築時から全体を借り上げ、各居室を賃貸(転貸)していました。
賃借人は、同物件の所在する市内に本店を有する有限会社であり、その従業員でもある代表者の配偶者が借上げ社宅の用に居住していました。
6か月以上の賃料滞納があるとして、建物明渡請求の事件の依頼を受けました。
サブリース会社からは、直近の更新した賃貸借契約書の提供を受けて、賃借名義人に対し、賃料催告をしましたが、賃借会社の担当者と名乗る人物から、滞納分はすぐに払うからとの電話がありましたが、催告期限までには支払いはありませんでした。
本件賃貸借は、賃料支払義務の債務不履行により解除されましたので、管轄の裁判所に建物明渡の訴訟を提起しました。
第1回口頭弁論期日までに、被告会社は答弁書を提出しましたので、次回期日が指定されました。およそ1か月後の第2回期日開始時間直前に、裁判所に電話があり、代理人弁護士を選任して、訴訟対応させる、本期日は多忙により出頭できないとのことでした。
被告は請求原因について認否する準備書面を提出しておりませんでしたので、裁判官は、証拠調べをし、審理を終結し、判決言渡し期日を指定しました。
同期日前に、被告に代理人が就任し、期日の指定を求められた場合には、その具体的内容に応じて、期日の指定などの対応をするとのことでした。
しかし、その後、被告に代理人は就任せず、明渡を命ずる判決がなされました。
この判決を債務名義として、本件建物の明渡の強制執行が行われました。
催告期日に、現場に赴き、依頼者担当者と合流しました。
集合郵便受けの表札に、賃借名義人企業以外の企業名が表示されていることが判明しました。
賃借法人の関係者は不在であり、また、催告執行には解錠業者を同行しましたが、1階の窓が無施錠であっため、解錠業者が内部から開場し、執行官とともに入室しました。
執行官は、本件建物占有者の特定のために、公共料金の領収書から契約名義人を確認したり、郵便物の宛名を確認するなどしました。
すると、賃借法人宛の郵便物以外に、賃貸借契約書に記載されていない入居者以外の人物をあて先とする郵便物が多数ありました。
執行官は、賃借名義人以外の占有者があるとして、本債務名義の執行は不能と宣言しました。
本物件の借上げ企業の担当者は、表札の起業が本件建物に入っていることを知らず、また、入居者は賃借企業の代表者の配偶者であるが、個人名のあて先名とは異なる氏名の方であるとのことでした。
本件建物の占有型に移転されず、本件執行で確認された債務者を特定し、同人らを債務者として、占有移転禁止仮処分申請をすることになりました。
執行官の調書上に、占有者として特定された3名(法人2社を含む)をさらに調査し、また、個人名は、戸籍名の表記がいわゆる異体字であり、通称では別の漢字や、その他の当て字を用いていることを突き止めました。
そこで、賃借名義の法人以外に、代表者の配偶者が同所で事業を営んでいること、また、郵便受けに表示された企業は、賃借企業の代表者の配偶者の子供が代表を務め、本件建物に本書をおいた企業であることが判明し、同債務者らを相手取って、保全命令の申立てをしました。
保全係の審査を受け、保全保証金の指定を受け、保証金を供託し、保全命令の発令を受けました。
この命令をもとに、占有移転禁止の仮処分の保全執行を行いました。
そこで、改めて、賃借名義人企業以外の、個人、法人を被告として、建物明渡請求の訴訟を提起しました。
本件建物が被告法人の本店所在地でしたが、同社は訴状を受け取らず、同社の代表者の住所である都内の住所に宛てて、訴状を送達してもらいました。
本件建物に居住している被告(法人の代表者の父)から、弁護士に相談しているから、滞納賃料は払うからと電話がありました。
しかし、占有者とは賃貸借契約を締結していませんし、占有企業に本件建物の占有を賃貸人は承知していません。
よって、賃料は賃料相当損害金として受け取るが、速やかな退去を求めるという方針であることを伝えました。被告は、都内の弁護士名前を出しましたが、結局、その弁護士からの連絡はありませんでした。
被告らは第1回口頭弁論期日に出頭もせず、また、答弁書も提出しませんでした。
当日、審理は終結され、判決の言渡し期日が指定されました。
同判決と先の判決を債務名義として、3名の債務者を相手方として、建物明渡の強制執行を申立てました。
2度目となる催告期日には、債務者個人がおり、執行官に対応しました。
任意退去を促しましたが、催告執行期日に至っても、都内の弁護士に依頼して、当職と協議させると述べていました。
断行期日を迎えましたが、それまで、やはり、相手方の弁護士からの連絡はありませんでした。
断行期日の前日に、任意退去したようで、本件建物内の残置動産はほとんどありませんでした。
任意退去の際に、郵便受けの表札の企業名の表示は消されていました。
本事例の結末
断行期日は無事終わりました。
その後、保全命令の発令を受けるために供託した保証金の取戻しを行いました。
本事例に学ぶこと
6回も更新した賃貸借の賃借名義人が6か月にもわたる賃料不払いをしましたので、賃貸人の担当者は、電話するのみならず、訪問もしていましたが、郵便受けの表札に、賃借既名義人企業以外の企業の表がなされていることに気づかなかったとのことです。
また、入居者が本件建物内で自営業を営んでいるというのも外部からはうかがい知れなかったとのことでした。
訴訟提起後のやり取りでお分かりのように、入居者は極めて不誠実な方でした。
建物明渡訴訟の依頼を受けた場合に、すべて占有移転禁止の仮処分申請をするわけではありません。
賃借名義人以外の人物が多数出入りしているとか、他の企業などの表札などがでており、占有が他人・他社に移転されていると認められるようなときに、占有移転の危険性があり、保全の必要性が認められるとして、保全命令を申立てることになります。
今回のように、極めてまれではありますが、賃借名義人企業を債務者とする債務名義を得て、強制執行申立てをし、催告期日に現場に臨場して初めて判明することがあります。
このような場合には、速やかに保全命令の申立てをする必要があります。
単純な建物明渡請求事件ではなくなり、このような事案こそ弁護士の専門とするところです。
弁護士に相談・依頼する前には、今一度賃借物件の占有状況をご確認いただけると大変助かります。
弁護士 榎本 誉