紛争の内容
Aは死亡した父親の遺産として父親名義の家屋を相続したが、その家屋には父親が生前内縁関係にあった女性B(同居期間約4年)が住み続けていた。
AはBと話し合い、Bは「あと半年くらいで出て行く」と約束したものの、約束の期間が過ぎても一向に転居する様子がなく、Aが訪問すると警察を呼ぶなどして強硬な態度を取るに至った。
交渉・調停・訴訟などの経過
Aは、Bに対して、所有権に基づいて家屋を明け渡すよう求める訴訟を提起することにした。
Bの側にも代理人弁護士がつき、「Bは死亡した父親の内縁の妻にあたり、黙示の使用貸借の合意が認められるから、明け渡さない」と主張して争った。
一方、父親は、亡くなる前に、「Bは私のお金をどんどん使ってしまって信用できない」、「私の死亡後は家から出て行ってもらいたい」、「Bが勝手に婚姻届を出したら困るので、不受理届を出しておきたい」とAに語っており、その会話が録音されたビデオがあったので、Aはそれらを証拠として提出し、「黙示の使用貸借の合意など成立していない」と反論した。
双方の主張立証が大方出揃ったところで、裁判所から、「AからBに解決金として400万円を支払い、BはAに家屋を明け渡す」という和解案が示され、双方検討の結果、その条件にて和解することに合意した。
本事例の結末
AはBに対して400万円を支払うことで、Bから家屋の明け渡しを受けることができた。
本事例に学ぶこと
被相続人死亡後に内縁の配偶者が被相続人名義の不動産にて居住を続けている場合、相続人からの明渡請求に対しては、①黙示の使用貸借の合意があった、②(たとえ①が否定されても)相続人からの明渡請求は権利濫用にあたる、との反論が考えられる。
本件では、諸々の証拠から①は否定できるとしても、②の主張を排斥できるかどうかは微妙なところであった(Bは高齢かつ近くに頼れる親族もいない。一方で、Aには今すぐその家屋を必要とする事情は特にない)。そのため、相応の金額を負担することにはなったものの、和解のうえ早期に明渡を受けることができたのは何よりであった。