紛争の内容
オーナーのAは、賃借人Bに対してアパートの1室を月額8万円で賃貸し、CはBの「同居人」として契約書に記載され、Bとともに物件で生活してきた。
Bの生存中は賃料の支払いが滞ることはなかったが、数年後にBが亡くなると、以降、賃料が一切払われなくなったため、Aは、Bの相続人であるD・Eに対して未払賃料を支払うよう催告したうえで、賃貸借契約を解除した。
ところが、賃貸借契約の終了後も、この物件には同居人Cが居座って生活を続けており、D・Eが弁護士を立てて退去を求める通知を送っても、全く反応が見られない状態が続いた。
Aは、D・Eから「このままでは自分達がAに負担しなければならない賃料相当損害金が膨らむ一方である。正式に明け渡しの手続きを取れるのはAだけなので、早く裁判を起こして欲しい」と懇願されたこともあり、明渡の訴訟を起こすことを決意した。
交渉・調停・訴訟などの経過
Aからご依頼を受け、速やかに、物件の明け渡しを求める訴訟を提起した(被告はC、D、Eの3名)。
弁護士をつけているD・Eにはきちんと訴状が送達されたが、Cは受け取らなかったために弁護士による現地調査を実施。物件での居住が確認できたことから、付郵便送達となった。
訴訟では、D・Eから「責任をもって未払賃料と明渡までの賃料相当損害金を支払うので、和解して欲しい」との申出があったものの、Cに退去してもらわないことには金額が確定しないため、Cに対する裁判と、D・Eに対する裁判とを途中で分離してもらい、先にCに対して明渡しを命じる判決を出してもらった。
判決後、Aは速やかにCに対して明渡しの強制執行を申し立て、強制執行を実施。
執行官らと現地に赴いて対面したCは、「自分はCではない」、「賃借人Bはまだ生きている。今日も仕事に行っていて、もうすぐ帰ってくる」、「判決に書かれているのは、別の次元の人達の話」、「あなたたちは詐欺集団」等の了解不能の言動を繰り返し、また、執行官や弁護士に対して、突き飛ばす、書類や身分証を取り上げる等の妨害行為があったため、催告・断行ともにかなりの時間と労力がかかったが、最終的には明渡しを実現することができた。
その後、D・Eとは、未払賃料と明渡しまでの賃料相当損害金を全額D・Eが一括して支払うとの内容で裁判上の和解が成立。和解成立後、D・EからAに対して速やかな支払いがなされた。
本事例の結末
物件の明渡しが完了し、また、賃借人の相続人から未払賃料と賃料相当損害金の全額を回収することができた。
本事例に学ぶこと
本件は、賃借人Bの死亡後も物件に居座っていた同居人Cが対応困難者であり、弁護士を入れての法的手続きによらなければ解決は難しかったと思われる。
せめてもの救いは、Bの相続人D・Eが、相続放棄することなく、100万円近い未払賃料と明渡しまでの賃料相当損害金を全額(しかも一括で)支払ってくれたことである。